東京国立近代美術館で開催された「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」の会場構成。この国立美術館の合同展では、幅広いジャンルの約120作品により、美術における眠りが持つ可能性を7章構成でたどる。
「眠り」というテーマを象徴するように、展覧会は寝室のカーテンを想起させる重厚な布で装飾したエントランスから始まる。各章の入り口には、グラフィックによって表現されたカーテンの隙間に、案内役とする18〜19世紀の巨匠・ゴヤの作品が掛けられている。通路では、ドレープをあしらった布カーテンが蛇行し、先へと人々を誘う。「目を閉じて」、「夢かうつつか」、「生の悲しみ」、「目覚めをまつ」と各章を順に進むにつれ、描かれる眠りの段階が変化する。混在する実物とグラフィックのカーテン、不安定な印象のタイポグラフィなど、夢うつつを感じる仕掛けによって、鑑賞しながら「眠り」に引き込まれるように錯覚する空間を考えた。また本展では「持続可能性」も重要なテーマに掲げ、前会期の企画展で製作された壁を積極的に残している。高低差のある壁や、カーテンの演出を生かすように丸みを付けた壁を新たに付け足し、新旧の壁の見分けがつかないように仕上げた。
会場の出口には、寝室をイメージし、眠りを誘う羊柄の壁紙を貼った窓辺を用意した。出口でいまいちど振り返ると、金明淑の作品「ミョボン」の目を閉じた人の顔が窓越しに見える。
ゆったりと作品と向き合える空間で、「眠り」そして「目を閉じる」表現が持つ大きな意味の広がりを前に、日常を振り返り、新たに「目を開く」ヒントとしたい。
主要用途: 展示会場構成
施工: 丹青ディスプレイ
クレジット: 主催:東京国立近代美術館/グラフィック:平野篤史/カーテン:オンデルデリンデ
所在・会場: 東京国立近代美術館
延床面積: 1118m2
設計期間: 2020.03-2020.08
施工期間: 2020.11
会期: 2020.11.25-2021.02.23
写真: 本多康司