2018 / Private house / Tokyo
界隈を作り出す明るいモクサン
根津駅から言問通りを歩き、谷中霊園に入る手前にとても不思議な桜の並木道があります。そこは車の通れる道なのですが、道路としては少し広く、駐車場のようでもあり、でも車はあまり通りません。桜の木に包まれたこの道を、周りに住む人たちは自分の椅子を出して庭のように使います。子どもたちも遊び場として自転車やボールを持って集まってきます。少し幅の広いこの道には、ゆるくやわらかな時間が流れているのがとても印象的でした。
そんな桜の並木道から一本入った路地にこの家は建っています。間口二間半にも満たない細長い敷地は、隣家がぎりぎりまで建て迫り、谷底のように三方が塞がれていました。ここで私たちは、狭小地に建つ住宅に求められるスケールを少しずつ広げてみようと考えました。
車が収まる駐車ピロティを少し持ち上げます。すると光が奥まで流れ込み、風がふわりと抜け始めます。持ち上げられた2階の床は室内に断面という動きをもたらします。次に床と床を繋ぐ階段の幅を少し広げます。するとそこがベンチのように見えてきます。階段に座って遠くの景色を見ながら本を読むと楽しそうです。最後に窓を少し大きく拡げてみます。すると窓のそばが外のように明るくあたたかな場所へと変わっていきます。ぽかぽかの陽の光の下、ハンモックに揺られながら昼寝をしたら気持ちよさそうです。
こうして住宅が持つ機能が少しずつゆるめられ、建物がゆるやかに開かれていきます。幅の広い桜の並木道のように、この家が周りとやわらかく繋がり、明るくのびやかな建築となっていくことを期待しています。